設定
年齢
リン:23 レン:20 ミク:20 ルカ:16 カイト:14 メイコ:14
リンは歌手で、レン・ミクは大学生。
ルカは高校生でカイ・メイは中学生。
リンレンメイコ三兄弟とミクルカカイト三兄弟。
親同士が仲がよいので幼馴染の関係です。
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カイトのクラスのHRはそう長いほうじゃない。
いつも決まった文句に決まった流れ、決まった連絡。
30分もない、いつもだったら耐えられる時間。
ただ、今日は早く帰りたかっただけで。
イライラと時計と担任の顔を見比べて鞄を握り締める。
終わったら即効で飛び出る用意は万端だ。
「じゃあ、今日はここまで」
最後の挨拶すらも面倒くさい。
とある思春期少年の日常
カイトの教室は昇降口の目と鼻の先にある。
走っていけば5分もかからない。
全速力で走って靴を履き替えて校舎の外へ。
一番乗りで校門を越えたら後は家まで一直線。
何としても早く家へ帰りたかった。
帰り道の途中にあるレコード屋から聞こえる聞きなれた声。
耳にスッと入る伸びやかな歌声。
いつもなら立ち止まってでも聞いていくけど、
今日はそんな暇はない。
それに帰ったら本物が聞ける。
どこに行っても流れている音楽、その歌い手。
〝鏡音リン〟はオレの幼馴染だ。
+++
走り疲れて重い扉を開けると、笑い声が聞こえた。
荒い息を整えて靴を放り投げて、いざ向かうは家のリビング。
大きな音をたてて煩い心臓をそのままにして、そっと戸を開ける。
そこでは、緑のツインテールと大きな白いリボンが楽しげに話しこんでいた。
「あら?早かったのね?」
ツインテールがオレに気づいてこっちを向く。
何でおまえがいるんだこの野郎。
「・・・なんで居るんだよ」
「今日大学ないんだもの」
嘘付け、サボったんだろ。
「誰もいないかと思ったら、ミクがいたから助かったわ」
白いリボンでゆるく長い金髪を束ねた彼女が笑う。
誰もいないだろうから急いで帰ってきたのに、これじゃ台無しだ。
「久しぶりだね、かーくん」
「・・・・うん」
テレビの中の人間がオレに向かって笑いかけている。
昔から綺麗な人だったけど、ますます綺麗になった。
「だいぶ背も伸びたんじゃないの?」
「まーだまだ、チビカイトのまんま」
背の順、前から数えたほうが早いんだから。
ミクがそう言ってオレをからかうのはいつもの事だけど、
ムッとしてしまうのは仕方ない。
ムカつくのは当たり前だし、この人の前では尚更だ。
「今のうちよ」
レンだってこのくらいの頃は私よりちっさかったんだから。
憧れの人のそんな一言で、機嫌が直る自分が単純に思えて、
嬉しいのに顔は歪んだまま戻らない。
「高校に上がった途端、あっという間に抜かされちゃった」
「・・・・そういえばそうね、アイツチビだったのに」
「今のうちに姉の威厳示しとかないと、生意気になるよ?」
笑いながら、軽い調子で話はポンポン進む。
女という奴のこういう調子はよくわからない。
ミクが居た時点でオレの今日の予定はガタ崩れ。
どうせ、そうして盛り上がっているところに、
入っていけるわけはないのだから。
オレはそのままリビングを出ようと後ろを向いた。
「ケーキあるからね」
後ろ姿に飛んできた憧れの人の声。
ケーキで機嫌が取れるとでも思っているのだろうか?
でもケーキと言われて、成長期の腹の虫が疼かないはずもなく。
「・・・荷物おいてくる」
結局、彼女に子ども扱いされても仕方ない程度に、
オレはまだまだ子どもなのだ。
+++
美味しそうなミルフィーユと、ダージリンの紅茶。
六人掛けのテーブルの、向かい合わせで座っている女二人の、
片方の隣のとなりの席へ腰掛、甘いケーキをじっくり味わう。
そんなオレを見て最初は微笑んでいたけれど、
やがて興味の対象は別のものに移り変わる。
ケーキで少し気分が上向きになったおかげで、
割り込む元気も沸いてきた。
一つ飛ばしで隣に座る、姉の顔色を伺いながら、
何とか入っていける話題はないか耳を澄ます。
三人居て一人が仲間はずれになるのはお決まりだけど、
隙さえあれば入り込んでやる。
独り占めされてたまるか。
今のお題は彼女の妹の話題らしい。
「最近めーが色気づいてきてね」
「そういう年頃だからね」
色気づいた・・・?
全然昔と変わらないだろう、アイツ。
殴ってくるし、スカートだろうが気にしないし。
「部屋にファッション雑誌が山積みなの!!」
おかげで掃除が大変なのよ、捨てたくないって言うし・・・
「わかるわかる」
オレも漫画雑誌山積みだ。
「こそこそ化粧の練習してたりするんだけど・・・」
口出してもいいと思う?
「う~ん・・・」
めーちゃんの場合は放っといた方がいい気がする。
「負けず嫌いだからなぁ」
「でも可愛いじゃない、ルカなんていつのまにか私より上手くなってたんだよ」
「ルカなら聞いてきたりしたけど?」「うっそ!!?」
・・・・・そういう話題には入れない。
+++
結局、彼女が帰るまでにオレの努力は報われなかった。
「あ、そろそろ帰らないと」
「レンなんて放っといても大丈夫よ」
「めーはどーすんの」
それに今日は外に皆で食べに行くんだから。
「えぇ~!!いいなぁ~」
「予約してあるから遅れたらまずいし」
あっという間にコートを羽織り、携帯を持つ。
そんな彼女をミクが何だかんだと引き止めていた。
「はいはい、また埋め合わせはするから」
「本当?」
「めーとルカも連れて買い物とかどう?」
めーに色々見立ててやってよ。
「まかせて!!」
何も言えないまま、彼女は玄関で靴をはいていた。
「じゃぁね、かーくん!!」
心配しなくても背はのびるから気楽にね。
最後のさいごで、そう声をかけて彼女は帰っていった。
+++
外に出て見送りしていたミクが、戻ってくるなり。
「ヘタレ」
「はぁ!?」
「滅多に会えないのに、あぁ勿体無い!!」
自分から話題も作れない何て駄目ダメ。
「アンタ論外よ論外!!」
「口を挟む隙間すら与えなかったのは誰だ!!!」
戻ってくるなりいきなり何だっていうんだ、この緑頭は。
論外も何もそっちの所為だろ!!!
「そんなんじゃ、リン姉どころか彼女なんてできないわよ?」
「余計なお世話だ!!!」
このツインテールは人を逆なでするのが生きがいなのか?
いちいち相手してるのもバカらしい。
が
「ま、九個差じゃ男だなんて見てくれないわね」
「わかんないだろ!!!」
そんくらいの年の差の夫婦なんていくらでもいる!!!
聞き捨てならないことを言われちゃ無視出来ない。
「じゃ、がんばなさい」
あのシスコン鉄壁男を超えてリン姉を私の妹にしてちょうだいな。
「期待してるわ」
言うだけいって去って行く、緑のツインテールを後ろから睨みつける。
いつものことながら、わけがわからん!!!
オレだって、あと三年もあればお前だってあの人だって見下ろせるようになる。
何度も何度も想像して、その度に虚しくなった彼女の隣で笑う自分。
「言われなくたって、諦めてたまるか!!!」
ずっと、ずっと、思ってる。
ずっと、ずっと、好きでたまらないのだから。